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熊本地方裁判所 昭和55年(ワ)810号 判決 1984年4月27日

原告

破産者天下一家の会・第一相互経済研究所こと

内村健一破産管財人

福田政雄

下光軍二

稲村五男

被告

宗教法人大観宮

右代表者代表役員

内村文伴

右訴訟代理人

浅見敏夫

中村尚彦

主文

一  被告は、原告らに対し

1  別紙不動産目録記載の不動産につき、別紙登記目録記載の所有権移転登記の否認登記手続をせよ。

2  前項の不動産を明け渡せ。

3  別紙動産目録記載の物件を引き渡せ。

4  別紙電話加入権目録記載第二ないし第四、第八、第九、第一一ないし第一三、第一五、第一七ないし第一九、第二二ないし第三一の電話加入権につき否認登録手続をせよ。

5  金二二億三、九三〇万円及びうち金六億三、九三〇万円に対する昭和五二年九月一〇日から、うち金一六億円に対する昭和五三年四月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

6  昭和五六年一一月一九日から前2項の不動産の明渡し及び3項の動産の引渡し済みまで一か月につき金二〇〇万円の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文一1、2、3、5と同旨

2  被告は、原告らに対し別紙電話加入権目録記載の電話加入権につき、否認登録手続をせよ。

3  被告は原告らに対し、昭和五二年九月一〇日から別紙不動産目録記載の不動産の明渡し及び動産目録記載の動産の引渡し済みまで一か月につき金一、〇〇〇万円の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  仮執行宣言(但し、第1項の1、5及び第2項を除く。)

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 天下一家の会・第一相互経済研究所(以下第一相研という。)こと内村健一(以下内村という。)は、昭和五五年二月二〇日熊本地方裁判所において破産宣告(同年七月一八日抗告棄却、同年九月二五日特別抗告棄却)を受け(以下第一相研こと内村健一を破産者という。)、原告三名は同日その破産管財人に選任された。

(二) 被告は、昭和四八年一一月に設立された宗教法人であるが、破産者が標榜してきた「心・和・救け合い」のうち「心」を表徴するもので、いわば第一相研とは異名同体の関係にあるものである。

2  破産者による本件物件等の取得

(一) 内村は、「心・和・救け合い」をかかげて昭和四二年以来、昭和四七年五月以降は第一相研の名のもとに、一定金額を出資して会員(以下第一相研の会員を会員という。)となり、更に子会員を作ればその会員には後日数倍ないし数十倍の送金があるといういわゆるネズミ講を次々と開設し、破産宣告当時その会員は約一一二万人、出資金額は約一、八九六億円を擁するに至つていた。

(二) 破産者は、右会員の入会金で別紙不動産目録記載の不動産及び別紙動産目録記載の動産並びに別紙電話加入権目録記載の電話加入権をそれぞれ購入し、内村健一名義で不動産については所有権移転登記を、電話加入権については名義変更登録をそれぞれ経由して所有していた。

(三) 破産者は、また東京都千代田区九段北一丁目所在の朝日九段マンション(以下九段マンションという。)を建設業者に建てさせてそれを購入する旨の売買契約及び熊本県阿蘇郡阿蘇町小里七八三所在の国際平和祈念会館(以下祈念会館という。)の建設請負契約を締結し、後記寄付行為が行われた昭和五二年九月九日までに右売買代金として三億三、九三〇万円を、右請負代金として三億円を右入会金をもつてそれぞれ支払つていた。

3  本件無償譲渡(寄付)行為

(一) 破産者は被告に対し、昭和五二年九月九日前記各物件及び電話加入権並びに前記売買及び請負契約上の各地位をいずれも無償で譲渡したほか、昭和五三年三月三一日右売買及び請負残代金支払に充てるための金員として計一六億円を寄付(以下一括して本件寄付という。)した。

(二) そして被告は現に右不動産及び動産を占有している。

4  否認権の行使

(一) 本件寄付行為は、次のごとき状況下において行われたもので、破産者が破産債権者を害することを知つてなしたものであることは明らかであるから、破産法七二条一号に該当するものである。

(二) すなわち、(1)破産者は、昭和五二年三月三〇日長野地方裁判所において、会員西降史ほか五四二名から提起されていた入会金等返還請求事件(同地裁昭和四七年(ワ)第三二号)につき、いわゆるネズミ講入会契約は公序良俗に反し無効であるとの理由により入会金の返還を命ずる判決(以下長野判決という。)を受けた。(2)右判決は即日新聞、テレビ、ラジオ等によつて大々的に報道され、その後も週刊誌や雑誌にも掲載され、ネズミ講は社会的な注目を集めたが、国会でも特に問題とされ、物価問題特別委員会を設置し、公聴会の開催、各地における実態調査等を行い、遂に昭和五三年一〇月ネズミ講を禁止する「無限連鎖講の防止に関する法律」を全党一致で成立させたが、政府もこれに先立つ昭和五二年六月頃から新聞、テレビ、週刊誌等を通じネズミ講への加入に注意を呼びかけていた。(3)他方長野判決の原告団長であつた前記西隆史や悪徳商法対策委員会会長堺次夫らはネズミ講被害者同盟を組織し、盛んに他の会員に対し右同盟への加入を呼びかけるとともに関係省庁や国会に働きかけ、これが新聞、テレビで報道されたため、各地で入会金返還訴訟を起こそうという動きが活発化してきた。(4)このため、破産者の経営するネズミ講は、加入者が激減し、会員は将来に不安を抱き、本部には電話や手紙による問い合せが殺到するようになり、また入会費の激減によつて講の運営に支障をきたすようになつていた。(5)このように破産者は早晩会員から入会金等の返還を迫られる立場に立たされていた。

(三) そこで、原告は被告に対し、本訴状及び請求の趣旨拡張申立書をもつて本件寄付行為を破産財団のために否認する旨の意思表示をし、右訴状は昭和五五年一二月二七日、右申立書は昭和五六年一一月一八日に被告に到達した。

5  九段マンション及び祈念会館の完成

右各建物は、前記寄付後被告において完成させたので、原告が否認の対象としている前記各契約上の地位は消滅したところ、右各地位は、破産者が右譲渡時までに支払つた九段マンションについては三億三、九三〇万円、祈念会館については三億円と評価することができる。

6  本件不動産及び動産の使用料

本件不動産及び動産を他に賃貸するなどしてその収益を計れば、その収益は全体で一、〇〇〇万円を下らない。

その根拠は次のとおりである。すなわち所得税法施行令八四条の二は、法人が役員等に居住等のため無償あるいは低廉な賃料で貸与している場合、通常支払われるべき賃料金額は、「(当該年度の家屋の固定資産税課税標準額×一〇〇分の一〇+当該年度の敷地の固定資産税課税標準額×一〇〇分の六)×一二分の一」の算式を用いているところ、本件不動産の昭和五五年度の固定資産税課税標準額は家屋が一四億一、七四四万九、四九五円、土地が六億四、三八四万七、四六二円であるから、右算式にこれをあてはめて右賃料金額を算出すると一、二一三万四、〇〇二円となる。

仮に右算式による使用料が認められないとしても、被告は本件不動産及び動産を訴外マリオン有限会社に月額二〇〇万円の賃料で賃貸しているので、右使用料は少なくとも月額二〇〇万円を下ることはない。

7  結論

よつて、原告らは被告に対し、否認権の行使に基づく原物回復として、本件不動産の否認登記手続及び明渡し、本件動産の引渡し、本件不動産及び動産の使用料として本件寄付行為のあつた日の翌日である昭和五二年九月一〇日から右明渡し及び引渡し済みに至るまで一か月につき一、〇〇〇万円の割合による金員の支払、本件電話加入権の否認登録手続、被告に寄付された金一六億円及びこれに対するこれが寄付行為のあつた日の翌日である昭和五三年四月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による利息の支払を、原物回復に代わる価額償還請求として、六億三、九三〇万円及びこれに対する契約上の地位が無償譲渡された日の翌日である昭和五二年九月一〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による利息の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)は認める。

但し、第一相研と内村とは別個の人格者で、第一相研は権利能力なき社団である。

同1(二)は、被告と第一相研とが異名同体であるとの点を除き認める。

2  同2(一)のうち、会員が約一一二万人、出資金額が約一、八九六億円を擁するに至つたということについては不知、その余は認める。

同2(二)、(三)は認める。

但し、本件物件の所有者及び原告主張の契約締結者は第一相研である。

3  同3(一)は認める。

但し、本件寄付行為は第一相研の昭和五二年八月二二日開催の理事会及び同年九月八日開催の臨時総会の各決議に基づくものであり、被告は内村とは別個独立の人格を有する第一相研から右寄付を受けたものである。

4  同4(一)は否認する。

本件不動産は前記のとおり第一相研の所有するものであつたが、第一相研名義で登記ができないので、代表者であつた内村の個人名義で登記したにすぎないものであつた。しかしながら、第三者の目には同人個人の財産と映るおそれがあつたうえ、内村自身が昭和四一年以来糖尿病の悪化のため生命の危機に立たされていたので、もし死亡するようなことがあれば、所有権の帰属について問題を残すことになるおそれがあり、また内村の所得税法違反被告事件の結審も間近く、本件不動産が内村個人名義で登記されているのは公判対策上好ましくないとの意見もあつたので、第一相研の会員代表の承認を得て、後記のとおり第一相研と同じ思想に根差す被告に譲渡したのである。

また、入会金等の返還を請求してきた会員は限られた一、〇〇〇人余りのものにすぎなく、多くの会員は依然として会の運営に賛同していたのである。したがつて、本件寄付行為当時第一相研には多額の入会金が納付されてきており、右一、〇〇〇余人の返還請求に応ずることなどはたやすいことであつた。

そして、右のような会員の動向は、今般の破産事件(熊本地方裁判所昭和五四年(フ)第八号事件)における債権届出に端的に現われている。すなわち破産宣告によると破産者は一一二万余の債権者に対して合計一、八九六億二、二八四万余円の債務を負担しているとしているが、債権届出期間を二か月経過した昭和五五年七月八日当時における債権届出口数は一四九万五、二〇六口のうち僅か五万九、二六一口、全体の四パーセントにも満たない状態である。

以上のことからすれば、第一相研は破産債権者を害することを知つて本件寄付行為をしたものでないことは明らかである。

同4(二)の(1)は認める。

同4(二)の(2)のうち、長野判決のなされた日から同判決が新聞、テレビ、ラジオ等によつて大々的に報道され、更に週刊誌や雑誌にも掲載されたことは否認し、その余は認める。

同4(二)の(3)、(4)、(5)は否認する。

同4(三)は認める。

5  同5のうち、九段マンション及び祈念会館は譲受け後被告において完成させたこと、右建物の譲渡につき否認権行使の対象となるのは原告主張のとおり各契約上の地位であることは認めるが、その余は争う。

否認権の行使によつて回復されるものは原則として原物であるところ、右各建物は被告所有名義で現存するのであるから、原告が否認権の行使によつて回復すべきものは、右各建物に対するその総価格に対して第一相研が譲渡時までに支払つた金額の割合による共有持分であると解するのが正当である。

6  同6は否認する。

三  抗弁

被告は、本件寄付行為当時、右寄付行為が破産債権者を害することを知らなかつた。

すなわち、被告は昭和四八年一一月に内村によつて設立されたものであるが、同人によつて同年五月に設立された財団法人天下一家の会とともに、第一相研と同じ天下一家の思想に根差すものであつた。ところで右天下一家の思想の根底を流れる理念が「心・和・救け合い」であつて、被告は右理念のうち「心」の面を、財団法人天下一家の会が「和」の面を受け持つものであつた。したがつて、被告が本件物件等の無償譲渡を受けても、会員らはこれを従来通り使用することができるし、第一相研が標榜する救け合い運動の実行に何ら支障をきたすものではない。被告としては、本件寄付にかかる財産をもつて全国各地に散在する信徒のために大観宮分宮を建立し、これを信徒や会員を教化育成する場としての修行所として使用することを計画していたもので、本件寄付行為が破産債権者を害することなど全く知らなかつた。

四  抗弁に対する認容

抗弁は否認する。

第三  証拠《省略》

理由

第一当事者等について

一第一相研こと内村(破産者)が昭和五五年二月二〇日熊本地方裁判所において破産宣告を受け、原告三名はその破産管財人に選任されたこと、右破産宣告の決定は同年九月二五日これに対する特別抗告の棄却により確定したこと、被告が昭和四八年一一月に設立された宗教法人であつて、破産者が標榜してきた「心、和、救け合い」のうち、「心」を表徴するものであることは当事者間に争いがない。

二ところで、被告は、破産者とされている第一相研こと内村について、第一相研は権利能力なき社団であつて内村とは別人格を有するものであると主張するが、<証拠>によれば、第一相研は、内村がネズミ講を運営する際の事業上の別称にすぎず内村とは別個の人格のものではないことが認められ、したがつて、第一相研と内村とが別人格であることを前提とする被告の主張(本件物件等の所有権の帰属及び入会金の受領や本件寄付行為の主体についての主張)はすべて理由がなく採用できない。

第二破産者による本件物件等の取得について

一請求原因2(一)の事実(破産者のネズミ講の開設、運営による入会金取得)は、破産宣告当時ネズミ講の会員数が約一一二万人であり、出資金額が約一、八九六億円を擁するに至つていたとの点を除いて当事者に争いがない。

二同2(二)の事実(右入会金による本件物件等の購入及び内村個人名義による登記、登録)及び同2(三)の事実(九段マンション及び祈念会館の売買及び工事請負契約の締結及び一部代金の支払)は当事者間に争いがないが、前示のとおり、右本件物件等の取得並びに右各契約の主体は、独立の人格を有するものとしての第一相研ではなく、破産者であると認めるべきである。

第三本件寄付行為について

請求原因3(一)の事実は当事者間に争いがないところ、被告は右寄付行為の主体は第一相研であると主張するけれども、前示のとおり第一相研は内村の別称にすぎないから、右寄付行為の主体は破産者であると認めるべきである。しかして、<証拠>によれば、右寄付行為は昭和五二年八月二二日開催の第一相研の理事会及びこれに続く同年九月八日開催の臨時会員総会(以下臨時総会という)の決議に基づき行われたことが一応認められる。

第四否認権の行使について

原告は、本件寄付行為が破産法七二条一号に該当すると主張するので、以下検討する。

一長野判決及びその影響

1  長野判決

内村が昭和四二年三月二〇日から昭和五四年一月までに第一相研の名称で主宰してきた各種のいわゆるネズミ講は、その仕組から必ず破綻をきたすものであること、一切の社会的生産や商品流通などを伴わない非生産的かつ射倖的要素の強いものであること、一方内村の欺まん的な勧誘方法などからすれば、ネズミ講入会契約は公序良俗に反する無効のものであるというべきものであるところ、内村は、昭和五二年三月三〇日長野地方裁判所において、西隆史ほか五四二名から提起されていた入会金等返還請求事件につき右と同旨の理由により合計約二、三〇〇万円の入会金の返還を命ずる判決を受けた(この点については返還金額を除き当事者間に争いがない。)。

2  長野判決の会員に与えた影響

右長野判決は、その言渡し直後から各種の報道機関によつて全国に大々的に報道されたため、これを知つた会員からは、第一相研に対して電話等による問合わせが相い次ぎ、当時東京、静岡等で同じように会員から内村に対する入会金等の返還を求める訴訟が係属していたこともあつて、会員に大きな不安、動揺を与えた。

また従来からネズミ講の社会に及ぼす害悪が指摘されていたこと等もあつて、国会においてもネズミ講の問題が真剣に取り上げられるようになり、昭和五二年四月二六日開催の衆議院の物価問題特別委員会で初めて本格的な追及が行われ、次いで同年五月一九日開催の同委員会において集中審議が行われるなど、ネズミ講禁止の立法化に向つて動き始め(因みに昭和五三年一〇月一八日にネズミ講を禁止する「無限連鎖講の防止に関する法律」が成立した。)、この国会の動きもその都度大きく報道された。また政府も、昭和五二年の六・七月頃に各新聞に「ネズミ講に御用心」という政府公報を掲載して、国民に対しネズミ講の話にとびつかないよう呼びかけ、更に経済企画庁も同年六月一日付で国民生活局長名で各都道府県知事宛に「『ネズミ講』にかかる消費者啓発について」という通知を出してネズミ講の危険性等について各都道府県における消費者啓発の推進を求めるとともに市町村に対し市町村広報による消費者啓発の実施を担当部局に指示するよう通知した。

3  長野判決の破産者に与えた影響

他方、長野判決は第一相研にも影響を与えずにはおかなかつた。

(一) 昭和四七年度(但し、昭和四七年五月二〇日以降)から同五二年度(一会計年度はその年の四月一日から翌年の三月三一日まで)までのネズミ講会員からの送金額及び入会金を年度別に見てみると、次表のとおり昭和四七年度から昭和五一年度までは送金総額及び入会金総額は増加の一途をたどつているが、長野判決後の一年間である昭和五二年度はそれが激減している(昭和四九年度以降送金総額と入会金総額が異なるのは、昭和四九年四月以降送金額の二五パーセントを財団法人天下一家の会及び被告へ寄付するようになつたことによる。)。

また、右判決後の昭和五二年四月から臨時総会で本件寄付が決定された同年九月までの各月別の送金総額及び入会金総額を昭和五一年度の対応月と比べてみると次表のとおり長野判決直後の昭和五二年四月から同年九月までの各月別の送金総額及び入会金総額もその前年度の同じ月と対比すると激減していることが明らかである。

(二) 次に昭和五二年度の第1四半期(四月一日から六月三〇日まで)の収支をみるに、前期繰越金約六一億三、〇〇〇万円のうち約一九億三、五〇〇万円を支出に充当しており、また昭和五二年度の予算と決算の対比をみると、予算では前年度の約半分の約五三億円の入会金収入を見込んだにもかかわらず、実際には右予定額の約半分の約二六億四、九〇〇万円しか入会金が入らず、しかも昭和五二年五月三一日当時における税金の滞納額が約四七億七、〇〇〇万円もあつたのである。

(三) 更に、第一相研の職員数を見てみると、昭和四七年六月が四六名で以後増加し、長野判決のあつた昭和五二年三月には最高の一八一名になつていたが、その後は減少の一途をたどり、本件寄付行為が行われた同年九月には一六七名になつていた。

(四) そのほか、昭和五二年七月二二日開催の理事会では昭和五二年度第1四半期の決算が入会金の減少により赤字になつたことを理由に同年七月以降内村の給料を廃止することが決定されている。

(五) 右のとおり、長野判決は第一相研の財政に重大な影響を与えたのであるが、臨時総会が開かれた昭和五二年九月当時、東京や静岡でも会員から入会金等の返還を求める前記訴訟が係属中であり、更に西隆史らの呼びかけもあつて全国各地において同様の訴訟が起こされることが予想され(現に長野判決後、東京、札幌等で約三〇件の同種の訴訟が提起されている。)、もし右訴訟において長野判決同様内村が敗訴すれば、同人が第一相研の名で運営する事業はただでさえ急激に財政状況が悪化していく中で更に多額の債務を負担しなければならないことが予想される状況であつた。

4  長野判決に対する内村の態度

右のとおり長野判決は第一相研の財政に重大な影響を与えたが、内村は右判決に対して直ちに控訴するとともに、第一相研はつぶれない等と依然として強気の宣伝を行い、新講の設置を計画するなどの態度をとつたが、他方昭和五二年七月二二日開催の理事会では前記のとおり自己の給料の廃止を決定したり、同年八月二二日開催の理事会では「同年五月三〇日開催の総会で承認された事業計画が長野判決の影響で遂行できない状態に陥りつつある。税金問題で第一相研はつぶれるとかつての同僚までも言つている。だからこの会を絶対に守らねばならぬという人達だけが頼りである。」旨のかなり追い詰められた発言をした。

以上のとおり認定でき、<反証排斥略>、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、長野判決は、新規会員の大幅な減少のみならず旧会員からの入会金等の返還請求の増長をもたらし、ひいては第一相研の財政を根幹から揺がすおそれのあるもので、内村にとつては、単に主宰してきた各種ネズミ講の運営に支障をきたすというようなものではなく、財産的な意味での破綻に導くものであつたと認めることができる。

二ところで、前示のとおり、本件寄付行為は形式的には一応第一相研の昭和五二年八月二二日開催の理事会及び同年九月八日開催の臨時総会において決議されたかたちをとつているので、以下右理事会及び総会の性格並びに右各決議の経緯について検討する。

1  理事会について

<証拠>によれば次の事実が認められる。

(一) 理事会の性質

第一相研は、定款一九条以下に会長(一名)、副会長(二名)、理事(一五名以上三〇名以内)等の役員に関する規定を置き一応執行機関としての理事及び理事会を存在させてはあるが、定款二〇条によれば「本会の創始者内村健一」を終身理事の会長と定め、一五名以上三〇名以内とされる理事のうち三分の一は右会長の指名とし、会員総会において選任されるものはその余の理事及び監事に限定されていて、会長をはじめ理事の三分の一が会員の多数意思に基づき交代させられない仕組となつている。

更に右理事会開催当時の理事の構成を見てみると、会長を含めて理事は一三名であり、そのうち会長指名の理事が六名いたこと、したがつて会長と会長指名の理事を合わせると会長である内村の意を帯した理事が理事会の過半数を占めていたことになり、実際上内村個人の意思に基づいて行われる業務の運営を追随するだけの存在にすぎなかつた。

(二) 理事会における本件寄付行為の決議

右理事会の議事録(甲二号証の一)には本件寄付を臨時総会に付議することが議決された旨の記載があるが、右理事会の議事を録音したと認められる「昭和五二年八月二二日理事会」と記載のあるテープの反訳書(甲二〇号証)によると、内村が右理事会において本件寄付行為を行いたいという自分の考えを述べ、それが議論されてはいるが議決された形跡がないのみならず、右理事会の結果を各支部長宛に通知した「理事会結果の通達について」と題する書面(甲二二号証)にも、右寄付行為の案件を臨時総会に付議することに決定した旨の記載は全くない。もつとも昭和五二年一二月二〇日開催の理事会議事録(甲二一号証)によると、同理事会において、昭和五〇年以降の理事会議事録については、「議事の要点が不明確で、必ずしも議事録として記述する必要のないものがあり、その文章も稚拙で議事録として保存するにはふさわしくない。」との理由で、これを全部作成し直したことが了承されており、弁論の全趣旨によれば本件理事会の議事録についてもその際に作成し直されたというのであろうが、再作成の前提とされている右理由が正しいという保証は、全証拠によるも認められない。

以上の事実が認められ、<反証排斥略>、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、右理事会はそもそもその本来の機能を有しないものといわざるを得ないから、仮に右理事会において本件寄付行為の案件が決議されたとしても、それは実質的にも団体の内部意思決定としての決議に値しないものといわざるを得ない。

2  臨時総会について

<証拠>によれば次の事実が認められる。

(一) 臨時総会の性質

第一相研の会員総会は、定款一五条により、各支部において選出された会員代表によつて構成されるのであるが、右支部については、五条が「事業を行うため必要に応じて支部を設ける。」と規定し、二五条の(2)において支部の設置を理事会の付議事項としているほか、昭和四七年一一月二五日に「支部運営規則」なるものが一応作成されてはいるものの、右規則は必ずしも会員の意思を総会に反映させる基盤としての支部設置を意図したものではなかつた。

ところで、定款作成前である昭和四七年五月にはかなりの加入者があつた青森、秋田、山形、静岡など数県において一〇か所程度の支部が存在していたが、これらは加入者中の有志によつて任意的に設けられたものであり、その後内村らも支部組織を必ずしも要しないとして、会員らが任意に設置したものを申出に応じて認可する程度に終始したため、昭和五三年五月に至つても東京都に五か所、その他の道府県に一三か所の支部が存在したにすぎなかつた。

もつとも右臨時総会においては、支部のない県をも含めて支部代表会員三〇〇名が選出され、うち二一三名が出席(そのうち八〇名は委任状による。)しているが、そのような会員代表の選出は定款に根拠を有しないものであり、またどのような基準で右会員代表が選出されたのか、その間の消息を窺うに足る証拠はない。

(二) 臨時総会の決議

右臨時総会の開催通知は、昭和五二年八月三〇日付で同年八月二二日に開催された理事会の結果の報告とともに前記選出された支部代表会員になされたが、本件寄付行為については何ら触れられておらなかつたところ、右総会の議長をつとめた内村から、突然右寄付行為の議案が提出され、極めて重要な問題であるにも拘らず質疑の時間は僅か三分程しか提供されず、議決の方法も最初の議案である長野判決の控訴審である「東京高裁の裁判参加に関する件」は起立で議決されているのに対し、本件寄付行為に関する議案は拍手で議決されており、右拍手も数名の会員の「異議なし」との発言に誘発されたものであつて、その間内村の一方的な発言に終始した。

以上の事実が認められ、<反証排斥略>、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、臨時総会は当時の会員の多数意思を反映するものとはいえず、したがつてその決議も第一相研の総会決議としての実質を有するものでないうえ、本件寄付行為に関する決議については、その手続、内容からするも到底総会決議の実質を有するものではないといわざるを得ないものであつたと認めるのが相当である。

三本件理事会及び臨時総会における内村の発言内容

前記認定のとおり本件理事会及び臨時総会は会員の多数意思を反映したものとはいえないのではあるが、ここで右各会における内村らの本件寄付行為に関する発言内容を検討することとする。

1  理事会における発言内容

<証拠>によれば、内村は右理事会において、本件寄付行為を行う理由として、「現在第一相研の基本財産は内村個人名義になっているが、国は第一相研の事業に対して法人税として四〇パーセントの課税をし、昭和五〇年度の法人税の(更正)決定の約四〇億円を払うと現状では第一相研の運営は難しい。このままでは第一相研の財産を守ることはできないのではないかと思われ、第一相研の財産を守り、安全に管理するためには第一相研の財産を被告に移す方がよく、そうすれば固定資産税だけでも負担が軽くなる。第一相研の財産を被告に移せば第一相研は赤字になり今のままではつぶれることになるが、事務処理その他は被告の方で行う。」旨述べたが、これに対し出席の税理士から「第一相研の財産を被告に移しても税金は追求される。財産の移転は詐害行為になる。」旨の発言がなされていることが認められる。

2  臨時総会における発言内容

<証拠>によると、内村は臨時総会において本件寄付行為を行う理由として、「第一相研の過去一〇年間の中で一番悩まし続けたのは税金であり、現在の税率は収益法人なみの四〇パーセントであり、この税金を払いながらでは第一相研の存続は難しいと思われ、そこで宗教法人である被告の方で新しい講である大師講を発足させることに決定している。第一相研の基本財産は内村個人名義になつているが、その財産を守り通すためにこれを被告に移しかえることを認めていただきたい。そうすれば宗教法人の特典として固定資産税は免除され、登記料なども免除される。」旨、理事会におけるのと同趣旨の発言をしたが、これに対し出席会員からは前記のとおり何らの発言がなされなかつたことが認められる。

四本件寄付行為の詐害性

前記認定の事実によれば、本件寄付行為は第一相研会員の多数意思に基づくものとはいえないばかりか、その対象となつた財産は、第一相研の本部、各地の保養所等の不動産、右各建物中の動産、電話加入権、三億三、九三〇万円及び三億円を支払つた時点における九段会館の売買及び祈念会館の建築請負契約上の各地位、そして合計金一六億円の無償譲渡であり、弁論の全趣旨によれば、右は第一相研の基本財産とされるもののほとんどを占めていること、そして、内村は、他には会員からの入会金等の返還請求に応じ得るだけの資産は有しないことが認められ、右事実によれば、本件寄付行為の結果第一相研こと内村はほとんど無資力となるから、右行為が破産債権者を害する行為であることは明らかである。

五内村の詐害意思

前記認定の事実に照らすと、なるほど内村は会員からの入会金等の返還請求や課税負担によつて第一相研がつぶれるのを防ぐ目的をもつて本件寄付行為をしたという面を否定することはできないが、これによつて利益を受ける者は内村をはじめ一部会員であるうえ、右行為は、入会金等の返還を求める会員にとつては返還請求を著しく困難にするばかりでなく、その担保がすべてなくなるということであり、内村も右の事情は十分知つていたというべきである。

ところで、被告は、本件不動産を内村名義で登記したのは第一相研名義で登記ができないからであるところ、これをこのままにしておくと右不動産は内村個人の所有と見られるおそれがあるうえ内村が昭和四一年以来糖尿病が悪化していつ生命が絶たれるかもしれない状態であつたので、もし死亡するようなことになれば、右不動産の帰属に問題を残すことになるほか、内村の所得税法違反被告事件の結審が間近で公判対策上内村個人名義で登記されていることは好ましくないという意見もあつたため本件寄付を行つたものであり、また入会金等の返還を求めてきた会員は極一部の会員であつて他の大多数の会員は依然として会の運営に賛同していたのであり、このことは本件の破産事件における債権届出に如実に現われており、したがつて本件寄付行為をなすにつき、破産者には債権者を害する意思などなかつた旨主張し、証人内村健一及び被告代表者は右主張に沿う供述をしている。

しかしながら、本件寄付行為の件が議論された前記理事会及び右案件が決議された臨時総会においては、当時内村の糖尿病が悪化して生命に危険があるとか、内村の所得税法違反の刑事々件の結審を間近に控えて第一相研の財産が内村の個人名義になつていることは好ましくないなどということは一言も触れられておらず、却つて証人内村健一の証言によれば、内村は昭和五一年前後に一週間から一〇日間位の海外旅行を五・六回しており、昭和五二年当時は入院はしていないことが認められ、右事実に照らすと証人内村健一、被告代表者の右各供述は到底措信できないから、被告の右主張は理由がない。

また、入会金等の返還を求める会員数の点についても、<証拠>によれば、確かに本件の破産事件において、昭和五五年七月八日時点における債権届出口数が一四九万五、二〇六口のうち僅か五万九、二六一口と全体の四パーセントにも満たないことが認められるが、右甲二七号証によると右届出債権額のみでもすでに一七九億円余に達するのに対し、右同日時点で破産者第一相研こと内村に残されていた資産の評価額は一〇億円にも満たず、到底右債権を満足させることができるような状態ではないことが明らかであるから(さればこそ本件破産宣告がなされたのである。)、届出会員数の割合が少ないことが、内村の詐害意思の有無を左右するものとはなり得ないというべきである。

そうすれば、内村は破産債権者を害する結果が発生することを認識しながら、本件寄付行為をなしたものと認めるのが相当である。

六受益者である被告の善意(抗弁)について

被告は、本件寄付行為が破産債権者を害することは知らなかつた旨主張し、証人内村の証言中にはこれに沿う供述部分がある。

しかしながら、<証拠>によれば、被告は、前記のとおり昭和四八年一一月に内村によつて設立された宗教法人であり、第一相研の標榜する「心・和・救け合い」のうちの「心」を表徴するものとされ、内村は設立当初から昭和五八年七月まで代表役員をつとめたこと、本件寄付行為のあつた昭和五二年九月当時における第一相研と被告の役員構成は、内村が第一相研の会長であると同時に被告の社主であり、内村の長男である内村文伴(現在は被告の代表役員)が第一相研の副会長(内村の指名理事)と被告の信者代表を兼任し、第一相研の理事(内村の指名理事)である内村竜象及び同堀鶴平はいずれも被告の責任役員を兼任していたこと、被告は昭和五二年九月一二日開催の役員会で本件寄付を受け入れる旨の決議をしているが、その際の出席者は右四名のほか責任役員二人が出席しているだけであつたこと、被告の信者とされている者はほとんどが第一相研の会員であつたこと、被告は昭和五一年四月以降ネズミ講の一つである「洗心協力会」の入会金のうち二五パーセントの寄付金によつて運営されてきたが、長野判決後は、従来第一相研が直接購入して会員に配付していた書籍を、被告が一旦購入し、右購入価格の数倍の価格で第一相研が購入するという方法を取り、その利益を被告が収受するようになつたこと、第一相研の本部と被告の事務局とは共に熊本市本山町六三五番地の第一相研のビル内に置かれていたこと、等の事実が認められる。

右事実から考えると、第一相研と被告は極めて密接な関係を有しているばかりでなく、内村は被告の中でも強力な発言力、影響力を有していたものであることが容易に推認できるところ、本件寄付当時の被告の役員構成及び本件寄付受入れを決議した役員会の出席者六名のうち内村、堀鶴平、内村竜象、内村文伴の四名は本件理事会及び臨時総会にも出席していたものであるから、被告は本件寄付行為に至る経費及び右行為により第一相研がほとんどの財産を失なうことになることを熟知していたと推認できる。

そうだとすると、前記被告の主張に沿う供述部分は措信し難く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

そうすれば、被告の右主張は理由がないといわざるを得ない。

七むすび

以上によれば、原告らは破産法七二条一号により、破産者が被告に対してなした本件寄付行為を否認することができるというべきところ、原告らが被告に対し、本訴状及び請求の趣旨拡張申立書をもつて本件寄付行為を破産財団のために否認する旨の意思表示をし、右訴状が昭和五五年一二月二七日、右申立書が同五六年一一月二八日にそれぞれ被告に到達したことは当事者間に争いがない。

そうすると、本件寄付行為は、右否認権の行使により破産財団の関係において効力を失つたものといわなければならない。

第五否認権行使の効果としての財産の復帰

破産者の本件寄付行為は右に述べたとおり破産財団との関係において遡及的に無効となるので、これを寄付の対象別に検討する。

一本件不動産及び動産並びに一六億円について

本件不動産及び動産を被告が占有していることについては、被告において明らかに争わないから自白したものとみなされるので、被告は原告に対し本件不動産につき、破産法一二三条一項による否認登記手続及び明渡しを、本件動産につき引渡しを、一六億円につき同額の金員及びこれに対する年五分の割合による右寄付の翌日である昭和五三年四月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による利息の支払義務があるというべきである。

二電話加入権について

原告らが請求する別紙電話加入権目録のうち第一、第五ないし第七、第一〇、第一四、第一六、第二〇及び第二一の各電話加入権については、依然として内村名義のままであるから否認の対象とはなり得ないので理由はないが、その余の被告名義のものについては理由があるところ、電話加入権に関する事項は郵政省令で定める電話加入原簿にこれを登録しなければならないことになつている(公衆電気通信法四〇条一項)から、破産法一二四条、一二三条により否認登録手続を命ずるのが相当である。

三九段会館及び祈念会館の各契約上の地位について

弁論の全趣旨によれば、九段会館及び祈念会館は、前記認定のとおりその各契約上の地位が譲渡された後、原告らの本件否認権行使前にいずれも被告においてその工事を完成させ、右各契約はその権利義務のすべてが履行され、その目的を達して終了したことが認められ、右事実によれば、否認権行使の結果、右寄付が遡及的に無効となつても右各契約上の地位の復帰は事実上不能に帰したのであるから、原告らは被告に対し、右各地位の原物回復に代るものとして各価額の償還を請求することができると解するのが相当である。

ところで、原物回復に代る価額償還を請求する場合、その価額算定をいかなる時点でなすべきかについては諸説があるが、本件のように契約上の地位の譲渡が否認の対象となつているような場合には、これを右譲渡時に求めるのが相当である。

けだし、契約上の地位というものは時の経過によつて変化流動するものであるから、その価額を算定することは非常に困難であるうえ、本件においては、否認権行使時既に右契約上の地位は消滅していたのであるから、なおさら譲渡時において価額の算定をなすべきである。

そこで、これを本件についてみるに、破産者は、右各地位の譲渡時までに九段会館については売買代金のうち三億三、九三〇万円を、祈念会館については請負代金のうち三億円をそれぞれ支払つていたことは当事者間に争いがないから、右各地位の原物回復に代る償還価額を右各支払金額に求めるのが相当である。(被告としては、各代金額のうちすでに支払ずみの金額については自己の出捐を要しないことになるから、右各地位の価値は右各支払ずみ金額相当額というべきである。)

ところで、被告はこの点につき原告らが否認権の行使によつて回復すべきものは右各建物に対する共有持分であると主張するが、右に説示したとおり、右各建物についての否認の対象はこれら建物に関する各契約上の地位であるところ、右各契約上の地位は契約の完全な履行によつて消滅し、もはやその回復は事実上不可能に帰したのであるから、右両建物の現存をもつて原物が残つているとは言えないと解するのが相当である。

したがつて、原物回復を前提とする被告の主張は理由がなく、いまだ採用できない。

四本件不動産及び動産の使用料について

原告らは、本件不動産、動産を他に賃貸するなどしてその収益を計れば、月額一、〇〇〇万円を下らないと主張し、その根拠として所得税法施行令八四条の二の計算方法をあげるが、<証拠>によれば、右計算の前提資料となる敷地の固定資産税標準額が、建物敷地以外の土地をも含めた本件寄付にかかる土地全体の課税標準額を示しているため、右敷地のみの課税標準額がいくらであるかを確定することができない。

そうすれば、右使用料の算定につき右計算式が相当であるか否かはさて措き、右計算式を用いてこれを算定することはできないところ、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

しかしながら、<証拠>によれば、被告は本件寄付後、本件不動産及び動産のうち第一相研ビルや各地に所在する信者修行所(保養所)を各建物内の動産も含め有限会社マリオンに月額賃料二〇〇万円で賃貸していることが認められるので、本件不動産及び動産の使用収益はこれを月額二〇〇万円であると認めるのが相当である。

ところで、原告らは右使用収益を該物件が被告に寄付された日の翌日から請求しているのであるが、証人内村健一の証言、被告代表者の尋問結果に弁論の全趣旨を勘案すれば、右各保養所等は元来会員のための保養施設でそれ自体収益を上げる目的のためのものではなく、いわば収益性のないものであつたことが認められるので、これが収益性を持たしめるためには単に破産者が破産したということのみでは足りず、原告らにおいてそのための何らかの行動が必要であると解するのが相当であるところ本件においては原告らが本件寄付行為につき否認権を行使したことをもつて右行動があつたと認めるのが相当である。

そうすれば、原告らの右主張は右否認権が行使された日の翌日である昭和五六年一一月一九日から本件不動産及び動産の引渡しずみまで月額二〇〇万円の割合による使用料を求める限度で理由があることになる。

第六結論

以上によれば、原告らの請求は、前記認定の限度で認容すべく、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を適用し、なお仮執行の宣言は相当でないのでこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(柴田和夫 最上侃二 林秀文)

送金総額

入会金総額

昭和四七年度

三一九、三〇二、一六〇

三一九、三〇二、一六〇

〃四八〃

八三九、八七〇、〇〇〇

八三九、八七〇、〇〇〇

〃四九〃

四、八〇八、五六〇、〇〇〇

三、六〇六、四二〇、〇〇〇

〃五〇〃

一三、一〇〇、〇〇一、〇八〇

九、八二五、〇〇〇、八一〇

〃五一〃

一四、六四〇、〇四九、六八〇

一〇、九八〇、〇三七、二六〇

〃五二〃

三、五三二、〇五四、〇〇〇

二、六四九、〇四〇、五〇〇

単位・円

送金総額

入会金総額

昭和五一年四月

一、四二七、四四〇、〇〇〇

一、〇七〇、五八〇、〇〇〇

〃  五月

一、四二八、三三〇、〇〇〇

一、〇七一、二四七、五〇〇

〃  六月

一、六六六、四五三、二四〇

一、二四九、八三九、九三〇

〃  七月

一、五三七、五五〇、〇〇〇

一、一五三、一六二、五〇〇

〃  八月

一、〇七二、一六〇、〇〇〇

八〇四、一二〇、〇〇〇

〃  九月

一、二三六、一六一、〇八〇

九二七、一二〇、八一〇

昭和五二年四月

六二〇、四六二、四〇〇

四六五、三四六、八〇〇

〃  五月

五一八、一〇七、二八〇

三八八、五八〇、四六〇

〃  六月

四二〇、〇〇四、三二〇

三一五、〇〇三、二四〇

〃  七月

三一一、七七〇、〇〇〇

二三三、八二七、五〇〇

〃  八月

二二三、七七〇、〇〇〇

一六七、八二七、五〇〇

〃  九月

二二六、二六〇、〇〇〇

一六九、六九五、〇〇〇

単位・円

不動産目録《省略》

動産目録《省略》

電話加入権目録《省略》

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